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『ありさ 割れしのぶ』 ~祇園舞妓 純愛物語~  作:Shyrock

(この小説は「愛と官能の美学」のShyrock様より投稿して頂いたものです。)

arisa


第一章 運命の出会い

 昭和初期。小雨がそぼ降るうっとうしい梅雨の日暮れ時、ここは京都木屋町(きやまち)。
 高瀬川を渡って祇園に向うひとりの舞妓の姿があった。
 目鼻立ちの整ってスラリととしたたいそう美しい舞妓で、名前を〝ありさ〟と言った。
 衣装は舞妓らしく実に華やかなもので、それでいて上品な薄紫の着物には一幅の名画を思わせる錦繍が施してあった。豊かな黒髪は〝割れしのぶ〟に結い上げられ、菖蒲の花かんざしが彩りを添えていた。
 歳は十九で舞妓としては今年が最後。年明けの成人を迎えれば、舞妓が芸妓になる儀式「襟替え(えりかえ)」が待っている。襟替えが終われば新米ではあっても立派な芸妓である。

 そんなありさに、早くも「水揚げ」(舞妓が初めての旦那を持つ儀式)の声が掛かった。
 稽古に明け暮れている時期はお座敷に上がることもなかったが、踊りや三味も上達して来ると、やがて先輩の芸妓衆に混じって何度かお座敷を勤めることとなった。
 そんな矢先、ある財界大物の目に止まり、声掛かりとなった訳である。
 だが、ありさは「水揚げ」が嫌だった。好きでもない人にむりやり添わされることなどとても耐えられないと思った。しかし芸妓や舞妓はいつかは旦那を持つのが慣わしだし、それがお世話になっているお茶屋や屋形への恩返しでもある。旦那が見初めれば、芸妓・舞妓には選択権はなく、お茶屋や屋形の女将の意向に従うのが当たり前。それが祇園の掟。
 そして今夜が、その辛い「水揚げ」の日だ。
 雨のせいもあったろうが、ありさはおこぼ(舞妓特有の履物)がいつもより数倍重いように感じた。


(注釈)水揚げ・・・
 今は少なくなったが、芸・舞妓は旦那と呼ばれるスポンサーを持つのが普通とされていた。
 水揚げとは、舞妓が初めての旦那を持つ儀式の事。
 大昔は、旦那の選択権は芸・舞妓には無く、旦那が見初めれば、お茶屋や屋形の女将、
 男衆が言いくるめて、強制的に添わされた。
 水揚げには大きなお金が動くから、屋形側から少しでも条件の良い旦那にお願いをする事もあったようだ。
 ただ、現在の祇園には「水揚げ」そのものが無いので注意を。
 現在では、客がある舞妓の旦那になりたいと願っても、その舞妓が旦那を持ちたいと思わない限り、それは叶わぬ夢に終わることになる。 今の祇園では、旦那云々というよりも、普通の恋愛としてとらえている芸・舞妓が多いように聞く。事実、落籍(ひか)されて(芸・舞妓を辞めて)、そのまま結婚してしまう例も多くなった。
 ありさが高瀬川を東に渡り終えた時、急におこぼの鼻緒がプチン・・・と切れてしまった。

「あぁん、いややわぁ、鼻緒が切れてしもた・・・、どないしょぅ・・・」

 屈んで足元を眺めて見たがなすすべも無く困り果てた。
 白足袋も鼻緒が切れた拍子に足が地面に滑り落ちて、つま先が少し濡れてしまったようだ。
 途方に暮れていたら近くを通り掛かった青年が声を掛けて来た。

「どうしたのですか?」

 ありさは声がした方向をそっと見上げた。
 そこには優しそうな眼差しの鼻筋の通った背の高い青年が立っていた。
 角帽、詰襟、下駄のいでたちから見て大学生のようだ。

「はぁ、それがぁおこぼの鼻緒が切れてしもたんどすぅ・・・」
「それじゃ僕に任せなさい」

 青年はそういってポケットから白いハンカチを取出し、長身を折り曲げてありさの足元に屈み込んだ。
 そのため雨は番傘を差せない青年の背中を濡らした。

「あ、すんまへんなぁ。せやけど、お宅はん、雨に濡れますがなぁ」

 ありさは慌てて、自分の傘を青年の頭上にかざした。
 遠くから見れば、相合傘の中で芸妓と大学生がいったい何をしてるのだろう・・・と、きっと奇異に感じたことであろう。
 青年は人目も気にしないで、懸命にハンカチを鼻緒代わりに結わえ付けた。
 見ず知らずの自分のために、雨に濡れながら鼻緒を結わえてくれる青年の横顔を、ありさはじっと見詰めていた。

「あのぅ…、お宅はん、学生はんどすなぁ?」
「ええ、そうですよ」
「その帽子の印からして、K都大学ちゃいます?」
「よく分かりましたね。そうですよ、今4回生なんです」
「そうどすか、えらいんやなぁ・・・」
「そんなことないですよ。それにしても可愛い足だなあ」
「えぇ?うちのおみやどすかぁ?そんなん、誉めてもろたん初めてやわぁ・・・あははは~」
「おみやって?」
「あ、おみやゆ~たら足のことどすぇ。京都ではそない呼ぶんどすえ」
「へえ~、そうなんだ。それは初めて聞いたよ」

「はい、できましたよ。これで大丈夫。格好良くはないけど、暫くは持つでしょう」
「やぁ、嬉しいわぁ~、お~きに~。お陰で助かりましたわ」
「それじゃ、僕はこれで」
「あ、ちょっとお待ちやす~。あのぅ・・・もしよろしおしたらお名前、教えてくれはりません?」
「名前ですか?本村俊介っていいます。あなたは?」
「うちは、ありさどす~。よろしゅうに~」
「ああ、どうも」

 本村と名乗る青年は照れ笑いしながら、帽子のひさしに手を置いた。

「ほな、おおきに~、さいなら~」
「さようなら・・・」

 先斗町を経て祇園へ向うありさとは反対に、青年は河原町の方へ向って行った。
 ありさはふと立ち止まりもう一度振り返った。
 そして、黒い学生服の後姿をじっと熱い眼差しで見送っていた。
 ありさは胸に熱い血潮がふつふつとたぎるのを押さえることができなかった。
 お座敷に来る男たちとはあまりにも違う。いや、違い過ぎる。
 今通り過ぎて行った学生の凛々しさと清々しさは、ありさの胸に鮮烈な印象を残した。
 だがそんな感傷を振り払うかのように、ありさは再び祇園に向って歩き始めた。




第二章 祇園

 今宵始まる生々しい褥(しとね)絵巻こそが、自分に与えられた宿命であると諦めざるを得なかった。

 祇園界隈に入ると花街らしく人通りも多く、いずこかのお茶屋からは三味の音も聞こえて流れて来た。
 ありさは辻を曲がって路地の一番奥のお茶屋の暖簾(のれん)をくぐった。

「おはようさんどすぅ~、屋形(置屋と同意語)“織田錦”のありさどすぅ~、遅うなってしもぉてすんまへんどすなぁ~」
「あぁ、ありさはん、雨やのにご苦労はんどすなぁ~」

 ありさに気安く声を掛けたのは、お茶屋“朝霧”の女将おみよであった。

「ありさはん、おこぼどないしたん~?鼻緒が切れてしもたんか?」
「そうどすんや。ここへ来る途中でブッツリと切れてしもて」
「あ、そうかいな。そらぁ、歩きにくかったやろ~?ありさはんがお座敷出てる間に、あとでうちの男衆にゆ~て直さしとくわ、心配せんでええでぇ~」
「おかあはん、お~きに~。よろしゅうに~」
「ありさはん、それはそうと、大阪丸岩物産の社長はん、もう早ようから来て待ったはるえ~。今晩は
待ちに待ったあんさんの水揚げやし、社長はんもえらい意気込んだはるみたいやわぁ~」
「・・・」
「どしたん?あんまり嬉しそうやないなぁ?」
「はぁ」

 女将に尋ねられて、ありさの表情が一瞬曇りを見せた。

「ありさはん、こんなことゆ~のんなんやけどなぁ、あんさんは屋形“織田錦”に入ってから、どれだけお母はんのお世話になったか解かってますんか?あんさんを立派な舞妓にするために、たんとお金を掛たはるんやで?ご飯代、べべ代、お稽古代、おこずかい、ぜ~んぶ、お母はんが出したはるんやで?」
「かんにんしておくれやす、うちが間違ごうとりました」
「解かってくれたらええんや。さぁ、社長はんが待ったはるでぇ。はよしいやぁ~」
「あ、はぁ」

 ありさはおこぼを脱いで玄関にあがった。
 脱いだおこぼを揃えようとして、白いハンカチの鼻緒をふと見た。
 先ほど出会った青年の笑顔がふわりと浮かんだ。

 廊下を歩き掛けたありさに、女将はもう一言付け加えた。

「ありさはん、あんさんは賢い子や。あんまりしつこう言わんでも解かってるやろけど、丸岩はんゆ~たら、関西財界でも五本の指に入るほどの大物どす。そんな旦はんに見初められたゆ~たら、すごいことなんどすぇ~。せやよって丸岩はんに少々何言(ゆ)われても、何されても怒ったらあかんおすぇ~。大人しゅうしとくよ~にな~。ほんでな、今日、いっしょに来たはる先輩芸者はんら、あの子ら、水揚げされるあんさんにヤキモチ嫉くかも知らへんけど、気にしたらあかんおすぇ~、よろしおすなぁ~」
「お母はん・・・、うちのことそないにまで思てくれたはって、嬉しおす。ほんまにおおきに~。お母はんの言わはったこと、よ~憶えときますぅ~」
「ほな、きばっておくれやっしゃ」

 女将おみよがありさを見てニッコリと微笑んだ。

「おおきに~、ほな、行て参じますぅ~」

 ありさは、女将の言葉に少し吹っ切れたのか、笑顔を取り戻し丸岩のいる部屋に向って行った。

「ありさどすぅ~、遅うなりましてぇ~」
「おお、ありさか。よう来た、よう来た。待っとったでぇ。はよ入りや~」

 襖の向うからのありさの挨拶に、部屋の中から丸岩の声が返って来た。

 ありさは襖を開けて、丁寧な挨拶を述べた。
 丸岩の前には豪勢な料理や銚子、それに選りすぐりの奇麗どころの芸妓衆が三味を弾き、踊りを舞い、かなり華やいでいた。

「ありさ、かたい挨拶はもうその辺でええから、早ようこっちへおいで」

 丸岩は今年五十八才になるが、さすがに一流の事業家らしく血色も良く、体格も立派で五尺九寸を超えるほどの大男であった。髪はふさふさとしていたがかなり白髪混じりで、鼻の下のちょび髭までが銀色に輝いて見えた。眼鏡は金縁で顔全体からは好色さが滲み出ていた。

 ありさはしゃなり、しゃなりと着物の裾を艶かしく床に滑らせながらお座敷の奥へと歩み寄ると、先輩の芸妓春千代がありさを睨みながら言った。

「ありさはん、えらいおそおすなぁ~。あんさん、いつから芸妓のうちらより、えろ(偉く)なりはったん?」
「あ、春千代はん、かんにんしておくれやす。お母はんに6時でええゆうて・・・」
「お座敷の時間はちょっと早め目に来とくのん、常識とちゃいますんかぁ~?」
「すんまへん・・・」

 ありさは春千代に頭を下げた。
 そこへ丸岩が口を挟んだ。

「まあまあ、春千代。もうやめとき。わしの顔に免じてもう堪忍したって」

「社長はんがそない言わはるよって、もう言いしまへんけど、次から気い(気を)つけてや」
「はぁ、すんまへん、以後気いつけますよってに堪忍しておくれやす・・・」

「よっしゃ、よっしゃ、ほな、ありさ、はよ、こっちにおいで」

 丸岩はありさを手招きし、横にはべっていた芸妓おきぬに席を空けるように指図した。
 お絹が退いたあと、ありさはそっと腰を降ろした。

「おお,待っとったで、ありさ,お前、見るたんびに(度に)ええおなごになって行くなぁ。ほな、酌してんかぁ」

 丸岩は相好を崩しながら、気安くありさの肩に手を廻した。
 ありさは頬を染めらながら徳利を手にするが、緊張のためか丸岩の持つ猪口(ちょこ)にまともに酒を注げない。
 そんなありさの初々しい様子を、丸岩は満足そうに微笑みながら話し掛ける。

「そんな緊張せんでもええで。気楽に行こ、気楽にな。わっはっはっは~」
「はい・・・」

 ふたりの様子を見ていた芸妓の春千代が一言挟んだ。

「いややわぁ、会長はん。うちら嫉けるわぁ~」
「ほほぅ~、春千代ほどのべっぴんでもヤキモチ焼くんか?」
「会長はん、相変わらず口が上手どすなぁ~」
「はっはっは~、ばれたかいなぁ~」
「もう、会長はん!いけずどすなぁ~」

 そんな会話のなか、ありさを横にはべらせ満悦顔の丸岩会長に芸妓のおきぬが一献勧めた。

「会長はん、今夜はありさはんの水揚げどすなぁ。おめでとうさんどすぅ~。ありさちゃんも良かったなぁ~」

 おきぬはありさが今宵の水揚げを嫌がっていることを知っていたが、あえて皮肉っぽく祝辞を述べたのだった。
 だが丸岩はその言葉を額面どおりに受取り素直に喜んだ。

「おおきに、おおきに」

 おきぬは差し出された漆塗りの盃になみなみと百薬の長を注ぎ込む。




第三章 水揚げの夜

 座敷には平安神宮の菖蒲の心髄にまで響くような見事な三味線の音が鳴り響き、鴨川の流れのように淀みのない扇の舞いが六月の宵に華を添えた。
 華やかに賑わった座敷も幕を閉じ、芸妓達は丸岩に丁寧な挨拶を済ませ座敷を後にした。
 座敷に残ったのは会長の丸岩とありさだけとなった。
 待ち望んでいた時の到来に、丸岩は嬉しそうに口元をほころばせた。

「ありさ、やっと二人切りになれたなぁ」
「あ・・・、はい・・・」

 虫唾が走るほど嫌な丸岩…今夜はこんな汚らわしい男に抱かれて破瓜(はか)を迎えなければならないのか。逆らうことなど微塵も許されない哀しいさだめを、ありさは呪わしくさえ思った。

「さあ、もっとこっちへ来んかいな。たんと可愛がったるさかいになぁ。ふっふっふ・・・」

 丸岩が誘ってもありさは俯いてモジモジとしているだけであった。
 そんなありさに痺れを切らしたのか、丸岩は畳を擦って自ら近寄り、ありさをググッと抱き寄せた。

「えらい震えとるやないか?何もそんな怖がらんでもええんやで。ふっふっふ・・・」
「あ、あきまへん・・・、あのぅ・・・お風呂に入って・・・あの・・・白粉落とさんと・・・」
「まあ、ええがな、そのままでも。お前のええ匂い、何も消してしまうことあらへんがな。ぐっふっふ・・・」

 丸岩は震えるありさを強引に抱きしめ、ありさの唇を奪ってしまった。

「うっ・・・ううっ・・・」

 両手で押して跳ね除けようとしたが、丸岩はさらに胸の合わせ目から、ゴツゴツとした手を入れて来た。

「あっ、あっ、会長はん、そんなことしたらあかしまへん~」
「何言うてんねん。わしはお前を水揚げしてやったんやで。嫌とか言える思てんのんか?」

 丸岩はありさに凄みながら、再びありさの唇を奪い取り、胸に手をさらに奥に差し込んだ。
 それでも必死に抵抗しようとするありさを、丸岩は押し倒し、帯を強引に解こうとした。

「あぁ、会長はん、そないなことしたらあかんえぇ・・・、べべ(衣服のこと)破れますぅ~!あぁ、あのぅ、自分で脱ぎますよって、堪忍しておくれやすなぁ~」
「ほう、自分で脱ぐちゅうんか?うん、それもええやろ。舞妓がべべ脱ぐ姿、見るのもええもんや。よっしゃ、ほな、隣の部屋に行こか?」

 丸岩は立ち上がり、隣の部屋との堺にある襖をさっと開いた。
 見ると、隣の部屋にはすでに豪華な夫婦布団が敷かれており、準備万端と言ったところだ。
 枕灯だけが薄っすらと灯り艶めかしく映える。
 ありさは一瞬立ちすくんだが、それも束の間、観念したのかゆっくりと寝室に入って行った。
 部屋に入ってから脱衣をためらうありさに、丸岩の催促の言葉が飛んだ。
 ありさは部屋の隅に行き、衝立て(ついたて)の向うで、しゅるりしゅるりと帯を解き始めた。

「衝立てに隠れたら、脱ぐとこ見えへんがな」
「あぁ・・・そんなん・・・、恥ずかしおすぅ・・・」

 丸岩が衝立てを無造作に横に移動させると、ありさは向こう向きで帯と着物を解き、襦袢姿になるところだった。狼狽して、肩をすくめ長襦袢の胸元を両手で押さえている。
 そんな仕種がかえって丸岩に刺激を与えてしまったようだ。
 丸岩はありさの背後から猛然と襲い掛かり、隠そうとする胸元に手を差し込んで来た。

「ああっ!会長は~ん~、堪忍しておくれやすぅ~!」

 か弱い力で抵抗を試みたありさであったが、如何せん相手が五十八とは言っても大柄な男、それに何と言っても水揚げされた側という立場も弱い。ありさの乳房はあえなく丸岩のてのひらの餌食となってしまった。
 ありさの耳元に熱い息を吹きかけ、しわがれた声で囁く丸岩。

「ぐふふ・・・、ええ感触やなぁ~。ありさ、お前、ええ乳しとるなぁ~。ぐふふふ・・・」
「い、いとおすぅ!(痛いです!)、あ・・・ああっ・・・会長はん・・・堪忍しておくれやすぅ・・・」
「何を言うてるんや。さぁ、さぁ、寝間へ行こ。早よ、行こ」

 丸岩はありさを抱きしめながら、もつれるように布団になだれこんだ。
 ありさのか細い身体の上に丸岩は覆い被さり、乳房を揉みながら、再び唇を奪ってしまった。

「うっ・・・ううっ・・・」

 さらに粘っこい舌はありさの首筋を這いまわった。
 まるで蛭が這い回っているような不快感・・・ありさは身体をよじって微かな抵抗を示した。
 丸岩はそんな些細な抵抗を処女の恥じらいであると喜び、むしろ男の興奮を駆り立てる結果となってしまった。
 胸元は長襦袢はおろか、肌襦袢までも掻き広げられ、一点の染みも無い美しい白桃のような乳房がポロリとあらわになっていた。
 丸岩の唇は首筋から乳房へ、そして乳首へ移行した。
 ありさの唇から火の点いたような声が発せられた。

「ああっ!ああ、いやや、いやや、堪忍しておくれやすぅ~・・・」
(チュパチュパチュパ・・・)

 丸岩はありさの声に耳を傾ける様子も無く、処女の乳頭に音を立ててしゃぶりついていた。
「ふふふ、かいらしい(可愛らしい)なあ。ええ身体しとるやないか。うふふふ・・・」

 淫靡な笑いを浮かべながら、再び乳首を吸い上げ、手は器用にありさの上半身を隈なく触りまくった。
 いつのまにか上半身から襦袢は脱がされ、腰の紐が辛うじて全開を止めていた。
 丸岩の指がその腰紐に掛かった。

「ああ!いやどすっ!」

(パラリ・・・)
 丸岩の慣れた手付きに、ありさの腰紐はいとも簡単に解けてしまい、肌襦袢は無造作に左右に肌けてしまった。そのため、ありさの下半身を覆う白地の湯文字(腰巻き)があらわになった。
 柳腰に巻かれた純白の湯文字が男の情欲を一層かき立てる材料になってしまった。
 丸岩は走り出した汽車のようにもうどうにも止まらない。鼻息荒く湯文字の中に手を差し込もうと伸ばした。しかし、ありさは脚をじたばたさせて、両手で丸岩を払い除けようと懸命にもがいた。

「ありさ、そんな嫌がらんでもええやないか。今からええこと教えたるさかいな~。ぐっひっひっひ・・・」

 そう言いつつ丸岩のねっとりと湿気を帯びた手は、湯文字を割り内股を撫でながら、女の秘境にまで忍び込んだ。

「ひやあ~!」

 いまだ他人に指一本触れられたことのない女の恥部に、丸岩の指はたやすく到達してしまったのだ。
(クリュ・・・)

「堪忍え~、堪忍しておくれやす!」
「うへへ、うへへ、ええ感触やな~。ぐへへ、ぐへへ・・・」」
(クニュクニュクニュ・・・)
「いやや!いやや!堪忍どすぅ~!」

 いまだかつて開かれたことのない美しい桃色の亀裂は、野卑な男の指で開かれ、擦られ、こね回され、散々なぶりものにされてしまった。
 だがそれはありさにとって、まだ地獄草子の序章にしか過ぎなかった。
 丸岩は湯文字をざばっと開いて唇を近づけた。

「ほな、ぼちぼち、ここ舐(ねぶ)らせてもらおか~。どんな味しとるかいな?ぐひひひ・・・」
「いやっ!いやどすっ!会長はん、堪忍してぇ・・・」

 ありさはしくしく泣き始めたが、丸岩は気にも留めずさらに卑猥な言葉で追討ちを掛けた。

「おい、ありさ。『うちのおそそ、ねぶってください』て言い」
「そんなぁ・・・そんな恥ずかしいこと言えまへん・・・」
「ほな、ちょっとおいど(尻のこと)痛い目させたろか?」

 丸岩はありさの尻を思い切りつねった。

「い、いたっ!やめてやめて、いいますぅ、いいますよってに堪忍しておくれやすなぁ・・・」
「ほな、言い」
「うちの・・・お・・・おそそ・・・ねぶってください・・・いやぁ・・・恥ずかしい・・・」
「よっしゃよっしゃ、よう言えたがな。ほたら、ねぶるで、ぐひひひ・・・」

 ありさはまもなく襲い来るであろう蹂躙の嵐に備え、眼を閉じ、唇をグッと噛み締めて耐え忍ぼうとした。

(ベチョ…)
「ひい~!」
(ベチョベチョベチョ・・・)
「いやあ~!、いやや、いやや、堪忍どすぅ~!」
(ベチョベチョベチョ・・・)

 まるでなめくじが秘所を這うようなおぞましい感触に、ありさは虫唾(むしず)が走る思いがした。
 丸岩の愛撫はとどまるところを知らず、舌は割れ目からやや上に移動し、栗の実を襲った。

「ひぃ~~!」

 指で丁寧に実(さね=クリトリスの意)の皮を広げ、舌先をあてがった。
 男を知らない身とは言っても、実は女の最も敏感な部分である。
 ありさはたちまち火が点いたように泣き叫んだ。

「あぁあぁあぁ・・・、嫌ぁ、なんかけったいやわぁ・・・、あああ、あかん、会長はん、そこねぶったらあかんっ、そんなことしたらあきまへん~!」
(ベロベロベロ・・・、レロレロレロ・・・)
「ひぇ~~!あかん、あかんっ!」
(ベロベロベロ・・・、レロレロレロ・・・)
「はふ~っ~~!」
「へっへっへ、だいぶ気持ちようなって来たみたいやなぁ。ほなら、もっと美味しいもんやるわ。へっへっへ・・・」

 丸岩はそういうなり、ありさを湯文字のまま脚を大きく開脚させ、腰をグググッと突き込んだ。
(グググッ・・・)

「ひゃあ~~!い、いたっ!痛いっ!!」
「最初はな、誰でも痛いもんなんや。がまんしい。そのうち、気持ちようなるさかいな。ぐっひっひっひ・・・」

 丸岩はそんな言葉を吐きながら、怒張したものをさらに深く押し込み、出し入れを始めた。

「あっ、あっ、痛い、痛い・・・堪忍やぁ、堪忍しておくれやすぅ~・・・」

(グチョグチョグチョ・・・)

 丹念な愛撫の末の挿入と言っても、ありさはまだ男を知らない身体、痛くない訳が無かった。
 丸岩はありさの真上に乗って突きまくったあと、さらに後背位にし、尻をしっかりと抱きかかえ後方から抉り始めた。

「ひゃあ~、ふわぁ~、あ、あ、堪忍やぁ・・・」
「えへへ、ありさ、ええおそそやないかぁ~。締りも最高や。ほへ~、こんな気持ちええおなごちゅうのんも珍しいわ!わしは、もっぺん(もう一度)お前を惚れ直したでぇ~。でへへ・・・」
「ああ、痛い、痛い、痛い!」
「おお、おお、おお、わし、もうあかん、もうあかん、イキそうやがな・・・、ほへ~!うぉうぉうぉ~~~!!」

 ありさの背後から挿し込んだまま、丸岩はついに果ててしまった。
 そのまま抜きもしないで、褥に手折れ込むふたり。
 丸岩はありさの乳房を優しく揉みながら、小声で囁いた。

「ありさ、わしはなぁ、お前をほんまに好きになってしもたで。
これからもかいがったる(可愛がってあげる)さかいなぁ。安心しいや」

 丸岩のその言葉に、ありさは形ばかりの愛想を返した。

「おおきにぃ・・・」

 ありさは下半身にぬめりを感じ、ふと見ると、真っ赤なものが白い敷布団を染めていた。




第四章 再会

 その後も丸岩は週に1度ぐらい、ありさを座敷に呼び夜を共にした。
 逆らってもどうしようもないさだめなら、いっそ従順に努めてみようと、ありさは決心したのだった。
 だが、そんな矢先、ひとつの出来事が起こった。

 ありさは女将の使いで、四条烏丸(からすま)の知人の屋敷へ届け物をした帰りのことだった。
 届け物も無事に済ませた安堵感もあり、ありさは小間物屋の店頭に飾ってあった貝紅を眺めていた。

「やぁ、きれいやわぁ~・・・」

 ありさは色とりどりの貝紅に目を爛々と輝かせていた。

 その時、何処ともなくありさを呼ぶ声が聞こえて来た。

「ありささん」

 若い男性の声である。
(だれやろか・・・?)
 ありさが声のする方を振り向くと、そこには少し前におこぼの鼻緒をなおしてくれた学生本村俊介の姿があった。

「あれぇ~、お宅はんは、あの時の~。その節は鼻緒をなおしてくれはってありがとさんどしたなぁ~」
「いいえ、とんでもないです」
「あのぅ・・・」
「はい、何か?」
「今、確か『ありさ』ゆ~て呼んでくれはりましたなぁ~?」
「ええ、そうですが。違ってましたか?」
「いいえ、そやおへんのや~、おおてた(合ってた)よってに嬉しかったどすぅ~。
 よう憶えてくれたはったなぁ~思て。お宅はんは確か『本村俊介』ゆ~お名前どしたなぁ~?」
「そんな~ん~、そんなん当たり前どすがなぁ~。そやかて、
 困った時に助けてくれはったお方はんのお名前忘れたら、バチ当たりますがなぁ~」
「いやあ、困ったなあ。僕は当然のことをしたまでですよ」

 ありさは俊介と言葉を交すうちに惹かれて行くものを感じずにはいられなかった。
 花街で大金を使い遊興する男たちのようなどす黒い欲得など微塵も見られない。
 彼の持つ実直で清廉な態度は、ありさに強い衝撃と印象を与えた。

「ところで今お忙しいですか?もし時間があればお茶でもいかがですか?
ちょっと行ったところに甘味処があるのですが、甘いものはお嫌いですか?」
「甘いもん?だ~い好きどすぅ~!」
「ははは~、じゃあ決まった」

「おこしやす~」

 ふたりは甘味処ののれんをくぐり、向い合って座った。

「ありささんは何がいいですか?」
「そうどすなぁ~、暑おすさかいに~かき氷いただきまひょかなぁ~?」
「僕もそうしよう。氷ぜんざいにしようかな」
「ほな、うち、宇治金時にしますわぁ~」

 かすりの着物を着て襷(たすき)をした娘が注文を取りに来た。

「おこしやす~、注文お決まりやすか?」
「宇治金時と氷ぜんざいをもらおうか」

 本村が答えた。
 店の娘は注文をすぐに反復し、去り際、本村に声を掛けた。

「ほんま、きれいな舞妓はんどすなぁ~」

 本村はどう言葉を返したものやら狼狽した様子だったが、咄嗟に口をついて出た言葉は・・・。

「そうでしょ?僕もそう思ってます」

 俊介の言葉に、ありさはポッと頬を赤らめた。

「そんなこと言わはったら照れますがなぁ~」

 店の娘は俊介に言葉を続けた。

「こんなきれいな舞妓はんが彼女どしたら、鼻高々どすやろなぁ~?」

「ええ、もう天狗ほど鼻が高いです。ははは~」
「本村はん、ようそんなこと・・・。うち恥ずかしおすがなぁ・・・」

 ありさは先ほど以上に頬が真っ赤に染まっていた。

 先程からそんなやりとりを伺っていた店主らしき男がやって来て、店の娘を叱り始めた。

「これ、お客はんに失礼なことゆ~たらあきまへんがな。早よ、謝り」

 そして店主はふたりにぺこぺこと頭を下げて、

「うちの娘、失礼なことゆ~てすまんどすなぁ」
「いいえ、気にしてませんよ。ねえ?ありささん?」
「はぁ・・・、そのとおりどす・・・」

 そんな些細な会話であったが、ありさはとても嬉しかった。
(本村はん、うちのこときれいて思たはるんや。鼻高々やゆ~てくれはったし・・・)

 俊介はありさに尋ねた。

「舞妓さんって、とても華やかだけど、結構大変なんでしょう?」
「はぁ、そうどすなぁ~、踊り、三味線、お琴、お茶その他、お稽古事ばっかりの毎日どすぅ・・・」
「座敷にも上がったりするんですか?」
「はぁ・・・、一応芸妓はんが主やけど、舞妓のうちらもお座敷にはたまにあがりますぇ」
「そうなんですか」

 お座敷の話に移るとありさの口は重くなった。
 俊介はありさの心情を敏感に察し、すぐに話題を転じた。
 そして再び話は弾んだ。

「本村はんは大学で何勉強したはりますのん?」
「法律です」
「へ~ぇ、そうどすんかぁ~、ほな、将来は政治家にならはるんどすか?」
「大望は抱いてはおりますが、夢のような話ですよ」
「本村はんは、どこに住んだはるんどす?」
「ええ、堀川・蛸薬師(たこやくし)で下宿をしています。汚い所ですが良かったらいつでも遊びに来てくださいね」
「やぁ、嬉しいわぁ~、ほんまに行ってもよろしおすんかぁ~?」
「休みの日にでもぜひ来てくださいね」
「ほな、今度の日曜日行ってもよろしおすかぁ?」
「ええ、もちろんです。待ってますよ」



第五章 路地裏の愛

 そして日曜日。ありさは浴衣姿に薄化粧と言う言わば普段着で蛸薬師へ向った。
 俊介に会える。好きな人に会える。ありさはそう思うだけで、胸が張り裂けそうなほどときめいた。
 路地を曲がると子供たちが楽しそうに石けりをしている。
 順番を待っている男の子に下宿の『百楽荘』がどこかと尋ねると、すぐに指を差し教えてくれた。
 2~3軒向うにある木造二階建の建物らしい。

「ありささ~ん、こっちだよ~!」

 待ち侘びていたのであろう。二階の窓から俊介が手招きをしていた。

「あ、本村はん、こんにちわぁ~、お待ちどしたか?」
「ああ、待ちくたびれたよ~」
「まあ」
「ちょっと待って。すぐに下に降りるから」

 まもなく、ありさの目の前に愛しい男の顔が現れた。

「よく来てくれたね。かなり探したんじゃないですか?」
「いいえ~、すぐに分かりましたぇ~」

 俊介に誘われて下宿に入ろうとした時、ありさは子供たちの遊ぶ姿を眺めながらにっこり笑って呟いた。

「懐かしいわぁ~、うち最後にケンパやったん、いつやったやろか・・・」
「ケンパ?」
「あれ?本村はん、ケンパ知りまへんのんかぁ?」
「石けりじゃないの?」
「うちとこ(私のところ)では、ケンパゆ~んどすぇ。何でかゆ~と、片足でケンケンして、両足でパッとつくから『ケンパ』ゆ~んどすぅ~」
「はっはっは~、なるほど。動作が語源になったんだね~」

「さあ、狭いけどどうぞ。ここが僕の下宿だよ」  
「おじゃまさんどす~、ほな、上がらせてもらいますぇ」

 俊介の部屋は6畳ほどあるのだろうが、驚くほど書物が多いため4畳半くらいにしか見えなかった。
 だが、ありさの訪問に気を遣って片付けたのか、整理整頓はよく行き届いていた。

「お茶を入れるから座っててね」
「やあ~、ごっつい本の数やわぁ~、本村はん、ほんまに勉強家なんやなぁ~」
「そんなことないよ。それはそうとその『本村はん』て苗字で呼ぶのやめてくれないかな?俊介でいいよ」
「お名前で呼んでもよろしおすんかぁ?」
「うん、僕だってありささんって呼んでるだろう?」
「あのぅ・・・」
「なんだい?」
「あのぅ、俊介はん・・・」
「どうしたの?」
「うちのこと、『ありさ』て呼び捨てに呼んでくれはらしまへん?」
「うん、いいよ・・・。ありさ・・・」
「やぁ~、嬉しおすわぁ~」

「ありさ・・・、君のこと好きだよ・・・」
「・・・・・」

 俊介に好きと打明けられて、ありさは胸に嬉しさが込み上げて言葉に詰まってしまった。

「君が大好きだ・・・」

 俊介は同じ言葉の前に『大』の字をつけてもう一度囁いた。
 そして優しく抱き寄せた。

「うちも・・・、うちも俊介はんが大好きおすぇ・・・」
「ありさ・・・」

 俊介はありさを抱きしめながら唇を求めた。
 俊介の求めにありさはそっと瞳を閉じて応えた。
 ありさにとって初めて心を許した人に捧げる唇・・・それは甘く切ない味がした。

「ありさ、君がいとおしい・・・」
「あぁ・・・嬉しい・・・、うちも好きどすぇ・・・」

 唇を重ねているうちに、ありさの頬に一筋の涙が流れた。
 その涙は俊介の頬までも濡らした。

「ん?ありさ、どうしたの?」
「ううん・・・何でもおへん。ただ嬉しいだけどす・・・」
「何か辛いことでもあるんじゃないの?僕に話してごらん」
「おおきにぃ・・・うっうっ・・・うううっ・・・」

 ありさは俊介にしがみ付き号泣してしまった。
 俊介は無言で抱きしめながら、ありさの額に頬擦りをした。

「辛いことがあるのなら僕に言ってごらん。話せば少しは楽になるかも知れないよ」
「す、すまんことどすぅ・・・取り乱してしもうて・・・」
「いいんだよ。僕にならいくら甘えたって・・・」

 ありさは涙目で俊介にそっと告げた。

「うち・・・舞妓やめたいんどす・・・、もう毎日が辛うて・・・」
「舞妓さんってほんと大変そうだね。どうしても合わないと思ったら、辞めてしまって別の職を探してみればどうなの?」
「それが無理なんどす・・・」
「どうして?これからの時代は女性も社会に進出していくことになっていくと思う。何も嫌な職業にしがみ付いていることはないと思うんだ」
「ところがそうはいかへんのどす。とゆ~のも、うちが十六で舞妓になってからとゆ~もの、屋形が衣食住からお稽古代、それにお小遣いまで、ごっつい(凄い)お金をうちに出してくれたはるんどす。せやよって、屋形に恩返しせんとあかんのどす・・・それが祇園のしきたりなんどすぅ・・・」
「で、稽古が厳しくて嫌なの?それともお客に酌をしたりするのが嫌なの?」
「いいえ、そうやおへん。お稽古もお客はんへのお酌も別に辛ろうおへん・・・」
「じゃあ、何が辛いの?もし良かったら言って?」
「いいにくいけど・・・」
「・・・」

「俊介はんは、『水揚げ』てご存知やおへんか?」
「言葉は聞いたことがあるけど、具体的にどんなことなのかは・・・」
「『水揚げ』ゆ~たら、芸妓や舞妓が旦那はんをとることなんどす。もっとはっきりゆ~たら、好かんお方であっても、ごっついお金を払ろてくれたはったら、その旦那はんと夜を共にせなあかんのどすぅ・・・」

 俊介はありさの話を聞いて愕然とした。

「『水揚げ』ってそういうことだったんだ。で、現在、ある人に好かれてしまっているんだね?」
「そうなんどす・・・、何でも会社をようけ(沢山)持った会長はんらしいんやけど、うち、その旦那はん、嫌で嫌でしょうおへんのどす・・・、顔見るたびに辛ろうて、辛ろうて・・・」
「そうだったんだ・・・」
「あ、堪忍しておくれやすな。うち、しょうもない話してもうたわ・・・」
「もしもね?」
「はあ・・・?」
「もしも、舞妓の君を身請けするんだったらどのくらいのお金がいるの?」
「え?身請け!?どのくらいかは知らへんけど、おとろしい(恐ろしい)ほどのお金がいると思いますぅ・・・、せやけどそんなん無理や・・・、俊介はんのその気持ちだけで、うちほんまに嬉しおすぇ~」
「ありさ・・・」
「しゅ、俊介はん・・・」

 俊介はありさを抱き寄せ、そのまま畳に押し倒してしまった。
交す熱いくちづけに、ありさは心が溶けてどこかに流れて行きそうに思った。
 いや、溶ければいい。
 溶けてどこかに行ってしまいたいと・・・。

「ありさ、君を遠くに連れて行きたい・・・」
「嬉しおすぅ~、俊介はんがそう思てくれはるだけでも嬉しおすぇ~」
「ありさ・・・、君を愛してる・・・例えられないほどに君が好きだ・・・」
「俊介は~ん・・・」

 俊介はありさの浴衣の紐を解くと、染みひとつない珠のような白い肌が現れた。
 美しいふたつの隆起・・・俊介はそっと指を滑らせた。

「あぁ・・・俊介はん・・・」

 俊介は隆起を丘の下から上へと優しく撫で上げ、頂きにある桜色のぼんぼりを指で摘まんでみた。
 ビクリと敏感に反応するありさ。
 俊介の唇は細い肩先、白いうなじ、ふくよかな乳房、そして脇腹へと這い回る。
 ありさの肌はほんのりと赤みが差し始めている。
 ありさは瞳を閉じて、愛される歓びをそっと噛み締めた。

 俊介は再び唇を重ねた。
 舌がつるりと滑り込みありさの舌と絡み合う。
 求め合う唇と唇、求め合う身体と身体、求め合う心と心・・・。
 俊介の指先は浴衣の裾を割って、太股を撫で上げる。

「あぁ・・・俊介はん・・・」

 指は太股から脚の付根附近まで伸びる。

「あああぁ・・・」

 ありさの消え入りそうな切ない声が、俊介の昂ぶりに一層拍車を掛ける。
 付根附近を撫でていた指が、一気に丘に駆け上がる。
 小高い丘には薄い目の若草が繁り、拓哉の指がゆっくりと旋回する。
 指は数度旋回して、丘の裾野へ進んで行く。

「ああっ!」

 裾野には小川が流れ、水嵩がすでに増していた。
(クチュ・・・)

「あああ・・・俊介はん・・・嬉しおすぅ・・・」
「ありさ、君が愛しい・・・」
「ああん・・・俊介はんにそこいろてもうて(そこをいらってもらって)嬉しおすぅ・・・」
「ありさ・・・」

 川の土手から水流の真ん中に指は埋没してしまった。
 そして川の流れに沿って擦りあげる。

(クニュクニュクニュ・・・)

「あんあん~、ああん、ああっ、た、俊介はん、気持ちようおすえ~」
「ああ、ありさ・・・、僕は、僕は君が欲しい・・・」

 俊介はそう言いながら、浴衣の裾を大きく開いて、ありさの脚を折り曲げた。
 そして間髪入れず一突き!

(ズニュ~!)

「あああっ!」

 俊介はありさの脚をしっかりと抱えあげ、海老のような格好にさせて激しく突き上げた。
 ありさの清流にはすでにおびただしいほどの水が満ち溢れ、俊介の怒張したものを容易に奥まで受入れた。

(グッチョグッチョグッチョ・・・)

 下宿の昼下がり、子供たちもどこかに行ったようで恐ろしいほどに静まり返っていた。
 そんな中で聞こえる音と言えば、ふたりの愛が重なり合う時に発する水音だけであった。

「うふふ、ありさ、すごくいい音が聞こえて来るね」
「ああん・・・そんなこと言わはったら、うち恥ずかしおすぇ・・・」
(グッチョングッチョングッチョン・・・)

 俊介は往復運動をいったん止めて、ありさを起こした。
 ありさは俊介との結合をそのままにして、両手を引かれゆっくりと起き上がる。
 俊介はありさを膝の上に乗せたまま、ありさの首筋に手を廻し、そっとくちづけを交した。
 そして俊介の手はありさの臀部をしっかりと抱えて、腰を激しく突き上げた。

「いやぁ~ん、あんあん~、俊介はんがふこう(深く)入って来はるっ~」

 この時、俊介はかなりの昂ぶりをみせていたため、天井を向いてそそり立つほどに硬く、そして大きく膨らんでいた。
 そんな俊介の興奮がありさにも肌を通して伝わったのだろう、ありさは堪らなくなって泣き叫んでいた。
(ズッコンズッコンズッコン・・・)

 俊介の強靭な腰は疲れることを知らなかったが、かなり限界に近づいていた。
 ありさも同様に絶頂が訪れようとしていた。

 水揚げ以降数度に渡る丸岩との契りでは、味わえなかった真の女の歓び・・・
 ありさは俊介と巡り合って、ついに知り初めたのであった。

「あっ、あっ、あっ、俊介はん、何か変や~、何か変や~、身体が、身体がぁ~、あああっ!いやあ~~~!!」
「うっ、うぐっ!うぉ~~~~~!!」

 ありさは俊介に抱かれて、初めて愛すること、愛されることを知り、感激のあまりむせび泣いた。
 ふたりは果てた後も、離れることもなくずっと抱合っていた。

「俊介はん、また会うてくれはるんどすかぁ・・・」
「もちろんだよ」
「嬉しおすぅ~、ほな次の日曜日にまた・・・」
「うん、いいよ。次の日曜日、どこかに遊びに行こう。じゃあ、また連絡をするから」




第六章 籠の鳥

 それから2日後、その日は風もなくとても蒸し暑い日だった。
 ありさは三味線の稽古を済ませ、手ぬぐいで額の汗を押さえながら、屋形“織田錦”に戻って来た。

「ただいまどすぅ~」

 いつもならば、女将か他の者から「お帰り~」の言葉が飛んでくるのに、今日に限ってやけに静かだ。
 ありさは訝しく思いながら下駄を脱ごうとすると、暖簾を潜って女将が現れた。
 どうも様子が変だ。
 女将が目を吊り上げてありさを睨んでいるではないか。

「ありさはん!早よあがってそこにお掛けやすな!」
「はぁ・・・」

 ありさは脱いだ下駄を並べ終えると、玄関を上がって板の間に正座した。

「ありさはん、あんさん、あたしを舐めてるんちゃいますんか!?」
「ええ!?そんなことおへん!お母はんを舐めてるやなんて、そんなこと絶対あらしまへん!」
「ほな、聞きますけどなぁ、あんさんの旦那はんてどなたどす?」
「はぁ、あのぅ・・・丸岩の会長はんどす・・・」
「そうどすな?丸岩の会長はんどすわな?ほなら、もひとつ聞くけど、あんさん、学生はんと付合うてるんちゃいますんか?」

 ありさは女将から学生と言う言葉を聞いた瞬間、身体中から血が引くような思いがした。

「付合うてるやなんて・・・・、そんなことおへん・・・」
「あんさん、あたしに嘘ついてどうしますのん。こないだの日曜日、男衆のひとりがあんさんを蛸薬師で見掛けたゆ~てはりますんやで?」
「・・・・・」
「なんで用事もあらへん蛸薬師におるんやろおもて、その男衆はあんさんの様子をちょっとの間、伺うてたらしいどす。ほしたら何とまぁ、学生はんと楽しそうに語らいながら家の中へす~っと入って行ったちゅう話どすがな。男衆がわざわざ、そないな作り話こさえる(こしらえる)思います?」
「・・・・・」
「黙ってたら解かれへんがなっ!どうなん!?」
「はぁ・・・、それほんまどす・・・」
「やっぱりかいな・・・、あのなぁ、あんさん、誰のお陰で毎日おまんま食べて、踊りや三味線なろてるおもたはりますんや?それにあんさんは水揚げをされた身やおへんか?丸岩はんの顔に泥塗るようなことせんといてんかっ!!」
「すみまへん・・・」

 ありさは瞼にいっぱい涙を貯めながら、女将に丁重に謝った。
 さらに女将は言った。

「あのな、ありさはん。そらあんさんかて年頃の娘や、誰かを好きなってもしょうおへん。せやけどな、舞妓になった以上は、それは許されへんことなんどすえ?恋なんか捨てなはれ。その学生はんのこと忘れなはれ・・・。それより、あんさんをかいがって(可愛がって)くれはる丸岩はんにしっかり尽くしなはれ。それがあんさんのためや。それが、舞妓の道とゆ~もんや・・・」

 ありさは女将の言葉を聞き、その場に泣き崩れてしまった。

*****

 次の日曜日、俊介は外出もしないで日がな一日ありさが訪れるのを待ったが、ありさは一向に現れなかった。

(どうしたんだろう?もしかして急用ができたのだろうか?それとも、何か事故でも・・・)

 俊介は書物を開いても全く手につかず、ひたすらありさの笑顔を思い浮かべ物思いに耽っていた。

 やがて陽が沈んでも、やっぱりありさは来なかった。

(会いたい・・・、ありさ、君に会いたい。たとえ一目だけでもいいから君に会いたい・・・)

 俊介は時間が経っても想いが募るばかりで、ついに会いに行こうと決心した。

 ランニングシャツの上に洗いざらしの白いシャツを引っ掛け下宿を後にした。
 暗い夜道をとぼとぼと歩き、俊介のいる木屋町に向った。

(確か屋形の名前は“織田錦”だったな・・・)

 木屋町界隈を探してはみたが、同じような店が多く“織田錦”が判らない。
 そこへ偶然道を通り掛かった御用聞きらしき男に尋ねてみて、俊介は自分が間近まで来ていることに気づいた。

「ごめんください」

 俊介は紺色の大きな暖簾をくぐり来訪を告げた。

「おこしやす~」

 そばかすだらけのまだ年の頃なら17,18ぐらいの女中が出て来た。

「夜分すみません。本村と申しますが、こちらにありささんはおられますか?」
「ありさはんどすか?はぁ、いてますけど、どんなご用どすか?」
「ええ、少しだけ会わせていただきたいんですが・・・」

(どうも客ではなさそうだし、それに見たところ学生のようだ・・・)
と女中は些か困惑した様子であった。

「はぁ、ほな、ちょっと待っておくれやす」

 女中は奥の方に消えて行き、しばらくして代わって貫禄のある女将らしき女性が現れた。

「おこしやす。お宅はんどすか?ありさに会いたいゆ~たはるお人は」
「はい、本村と申します。ありささんに一言だけお伝えしたいことがあるので会わせていただけませんか?」
「お宅はん、学生はんどすな?」
「はい、そうですが・・・」
「無理どすな」

 女将は毅然とした態度で俊介に言った。

「え?そんな・・・。一目だけでいいんです。お願いします」
「それは無理とゆ~もんどす。ありさは舞妓どす。舞妓ゆ~もんは、お客はん以外の男はんと会うことはまかりなりまへんのや。ど~しても、ありさに会いたい言いはるんやったら、お客はんとして来ておくれやすな」
「客として・・・ですか?それで、いかほどの料金が必要なんでしょうか?」
「金額やおへん。お金をなんぼぎょうさん(沢山)積んでくれはってもあきまへんのや。この祇園ゆ~とこは信用が第一なんどす。どこぞの有名なお方の紹介でもおありやすか?」
「ええ?紹介・・・?有名な人の紹介が必要なんですか?」

 俊介は愕然とした。
 女将はさらに追い討ちを掛けるように言った。

「誰ぞご存知どすか?」
「いいえ・・・そんな人は知りません・・・」
「それやったら悪いけど、帰っておくれやすな。ほんで、金輪際(こんりんざい)ありさには指一本触れんといておくれやす。ほな、はよ、いんでんか(帰ってくれるか)」
「ちょっと待ってください!一目だけでいいんです。お願いです!一目だけ会わせてください!」
「しつこいお人やなあ~。・・・。ちょっと~、誰ぞちょっと来てんかあ~」

 女将が呼ぶと奥の方から中年の男と若い男がふたり出て来た。
 ここの男衆(おとこし)のようだ。

「女将はん、どないしはりましたんや」
「この学生はん、ありさに会わせろゆ~てきかはれしまへんのや。こんな玄関先におられたら商売のじゃまどす。出て行ってもろて」
「学生はん、そうゆ~ことや。ここはあんたなんかが来るとこちゃうんや~。さあ、出て行ってんか~。」
「そこをひとつ、何とか、お願いです!」
「お宅、えろう聞き分けのおへん人やなあ~。さあ、はよ出て行ってんか~!」

 男衆は俊介を怒鳴りつけながら、両方から腕を掴み、店の外に引き摺って行った。
 それでも俊介が執拗に食い下がったため、男衆のひとりが俊介を胸座を掴んで地面に押し倒してしまった。
 その拍子に俊介は地面に頭を打ちつけたのか、額から赤い血を滲ませた。
 俊介は地面に這いつくばるようにして立ち上がり、男衆の足元にすがって哀願し続けた。
 男衆は吐き捨てるように言った。

「学生はん。これ以上しつこうありさに付きまとったら、今度は営業妨害で警察に突き出すで。ええな?憶えときや」

 尋常とは思えない玄関先の様子を暖簾の陰で眺めていたありさは、必死に留める先輩の芸妓を振り切って、俊介の元へ駆け寄ろうとしていた。

「あかん!行ったらあかん!ありさちゃん、ここはじっとがまんするんや。ええな」
「そんなん、そんなん、あんまりひどおすぅ・・・」

 ありさは悔しさに唇を噛み締めながら、声を殺して泣き崩れてしまった。




第七章 芋折檻

 それから二日後の夜、ありさは傷心も癒えないままお座敷にあがった。
 相手はもちろん丸岩であった。
ありさと俊介の一件を女将はひたすら隠していたのだが、いつのまにか露呈してしまった。
 織田錦の男衆のひとりに松吉という如才がない男がいた。
 丸岩は従来から疑り深い性格であったため、公私共に、常に情報網を張り巡らせていた。
 織田錦においては、この松吉という男が丸岩の<連絡係>の役目を担っていた。

 丸岩は自分の目の届かないところで、ありさに起こった出来事を一部始終連絡しろ、と言う指図をしていた。
 そんなこともあって、ありさの俊介との一件はすでに丸岩の耳に達していたのであった。

*****

 宴もそこそこに切り上げた丸岩は、その夜もありさを褥(しとね)に誘っていた。
 丸岩は布団の中でありさの身体を撫で回しながら囁いた。

「ふっふっふ・・・、ありさ、今晩はお前にたっぷりとお仕置きしたるわ。覚悟しいや」
「え?なんでどすか?」
「呆けたらあかんで。お前が学生と付合うてることくらい、もうとっくに知っとるんやで。わしを騙しおって、この女狐が!」
「そんなこといったい誰から・・・」
「誰からでもええがな。その学生にここをいじられたんか?ひっひっひ、こういう風にな~」

 丸岩はありさの襦袢の裾から手を入れ、早くもまだ濡れてもいない裂け目を嬲り始めた。

「そんなぁ・・・そんなことしてまへん・・・」
「ひっひっひ、嘘ゆ~たらあかんで。何でも学生の下宿に入り浸りやったそうやな~?それやったら、ここをこないに触られたくらいやないな?もっとええことしたんやろ?」
「してしまへん・・・」
「嘘ゆ~たらあかん。ここに大きいもんを入れられたんやろ?ちゃうんか?どや?わしのとどっちが大きかった?」
「そんなん知りまへん・・・」
「どうしても知らんゆ~んやな?正直に白状したら堪忍したろて思てたけど、嘘つくんやったら、やっぱりお仕置きをせんとあかんわ」

 丸岩はそう言いながら、布団からありさを引きずり出して、ズルズルと床の間まで連れていった。

「いや~!何しはるんどすか!?堪忍しておくれやす~!」
「何をて、決まってるやないか?お仕置きや、お仕置き」

 丸岩は嫌がるありさを予め用意していた麻縄で、床の間の柱に立位のまま縛り付けてしまった。
 さらに日本手拭いで猿ぐつわまで噛ませて口を封じてしまった。

「ううっ!ううう!」

「あんまり大声出されて、女中がびっくりして飛んで来ても困るさかいな~。ひっひっひ・・・」

 柱に後手縛りでしかも猿ぐつわと、戒めを施されてしまったありさが自由にできるのは二本のムッチリとした脚だけであった。

 丸岩はありさを縛ったままにしておいて、押し入れから奇妙な道具を持ち出して来た。
 どうも、台所で使う『すり鉢』と『すりこぎ』のようだ。
 そして包装紙から、こげ茶色の『芋』らしきものを取り出して来た。
 声の出せないありさは、目を丸くしてその得体の知れないものを見つめた。

(あれは芋みたいやけど、一体どうするつもりやろか・・・)

 丸岩はこの後、驚いたことに、すり鉢に芋らしきものを入れて、すりこぎで潰し始めたのだ。
 ある程度潰れると、今度はグルグルと掻き混ぜた。
 まさかこんな座敷で料理を作るわけもなかろうに、丸岩は一体何をしようと言うのだろうか。
 充分にとろみが出るまで混ざった頃、丸岩はニタリと嫌らしい笑みを浮かべた。

「ふっふっふ・・・、ありさ、これ何か解かるか?これは山芋や。食べたことあるやろ?山芋はな、滋養強壮の食べもんとして昔から有名やけど、他にも女の淫薬としても有名なんやで。知らんかったやろ?今からたんと食べさせたるさかい、楽しみにしときや、ひっひっひ~。ああ、もちろん、下の方のお口に食べさせたるさかいな。ぐっふっふっふ・・・」

 丸岩はそういいながら、すり鉢を持って、ありさのそばににじり寄った。
(うぐうぐうぐっ!)
 顔を横に振り拒絶の態度を示すありさではあったが、身体を拘束されてしまった今逃れる術はなかった。
 丸岩はすり鉢から山芋を指でひとすくいし、ありさの顔に近づけた。

「ひっひっひ、ありさ、お前のアソコにこれをたっぷりと塗ったるさかいな。どうなるか楽しみにしときや。あ、そやそや、その腰巻きちょっとじゃまやさかい、取ってしもたるわ。ぐっふっふ・・・」

 ありさの腰を包む布地はパラリと床に落ちて、着衣は肌襦袢だけとなってしまった。
 しかし下半身を覆うものはすでに何もなく、無防備な状態で丸岩の異常な欲望の前に晒されてしまった。
 必死に膝を閉じ合せ、抵抗を試みるありさであったが、男の力には抗うべくもなく、その侵入を許すことになってしまった。
 丸岩の指はありさの真直ぐに伸びた一本道のような亀裂に触れた。

「ぐふふふ・・・」
「ううっ!」

 丸岩はニヤニヤと卑猥な笑みを浮かべながら、丁寧に陰唇部分へ塗り始めた。
 続いて、実(さね)の包皮を開いて剥き出しにし、実に擦りつけるように塗り込めた。

「さてさて、ほんなら、次はこのかいらしい(可愛らしい)穴の中も、たっぷりと塗ったるさかいな。ぐひひひ・・・」

 山芋が滴る指は、ついに裂け目の奥深くにも侵入を開始した。
 内部の襞のある部分はその感触を楽しむかのよう似、特に念入りに摩擦を加えたのだった。

「ううっ、ううっ・・・ううっ・・・」

 秘所が焼けるようにカーッっと熱くなって来た・・・
 そして次第に激しい痒みがありさを襲い始めていた。
 額からは大量の唐辛子でも食べたかのように、大粒の汗が吹き出していた。

「ぐっふっふ・・・どうや?痒いんちゃうんか?」

 ありさは苦悶に歪んだ顔を縦に振った。

「せやけど、しばらくはそのまま我慢してもらおか。よその男を咥え込んだ罰(ばち)やさかい、それぐらいは辛抱してもらわんとあかんわなぁ」
「ぐっ・・・ううう・・・」

 丸岩は底意地の悪さを露骨にありさにぶつけたのだった。

 とにかく痒くて堪らない・・・そして熱い・・・

(ああ、辛い・・・)

 ありさは身を捩じらせて、ムズ痒さと懸命に戦ったのだった。

 しかし時間が経つに連れ、我慢も限界に近づいていた。
 狂いそうなほど痒い。

「うぐうぐうぐ~っ!」

 ありさは猿轡を噛まされて叫べない苦しさを、態度で現すしかなかった。
 身体からは大量の脂汗を流し、腰を精一杯に捩り出した。
 ありさの股間からは、おびただしい愛液が山芋と交じり合って太股がボトボトになるほど流れ出していた。

「どや?ぼちぼち掻いて欲しいんとちゃうんか?」

 最初その言葉にも顔を背けて無視をしていたありさであったが、ついに耐えかねて屈服の態度を表わしたのだった。

「ふふふ、首を縦に振ったな?ふっふっふっ、そうかそうか。そんなに痒いんか?よっしゃ、ほな、ぼちぼちええもん咥えさせたるわ。ぐっひっひ・・・」

 丸岩は横に置いていた木箱から、奇妙な形の道具を取出した。
 ありさはそれを見た瞬間、顔が青ざめてしまった。
 それもそのはず、丸岩の取出した道具というのは、江戸時代から伝わる木製の「張形」で、周囲が異常に太く、一般男子のそれよりもふた周りぐらいは大きい代物であった。

「ありさ、ほんとやったら、わしのもん咥えさせたるとこなんやけどな、わしまでかいなる(痒くなる)のんかなわんさかいに、代わりにこの太いもんでしっかり擦ったるわ。気持ちええで…ぐひひひ…」

 本来のありさならば、そのおぞましい形状の異物を脚で蹴ってでも拒絶していたところであろうが、今はそんなことができる状態ではない。
 何でもいい、とにかく身体の痒みを鎮めるものが欲しい。
 そんな思いから、ありさは屈辱に身を焦がしながら、丸岩の差し出す淫猥な異物を受け入れたのであった。

「うう、うぐぐ…うううっ!」

 激しい身体の火照りと痒みのせいで、愛液と山芋の混じり合ったものはおびただしく溢れ太股まで伝っている。
 丸岩は舐めるような目つきでありさの苦悶の表情を楽しみながら、太い張形をゆっくりと沈めて行った。

(ズニュ…ズズズ…)

「ううっ~~~!」

 丸岩は張形を深く押込みはしたあと、手を休めてしまった。
 痒みを止めるためには、不本意ながら丸岩の手を借りなければならないというのに。
 丸岩は不敵に笑った。

「ふっふっふ、わしの役目はここまでや。痒みを止めたかったら、自分で腰をくねらしてゴリゴリと擦りつけることやな。ふあっはっはっは~!」

 何という底意地の悪い仕打ちであろうか。
 空腹の者にご馳走をちらつかせておいて、『お預け』と言っているようなものだ。

「くうっ…うっ…ううう…」
「痒いか?ふふふ…、はよ、腰を動かさな狂うてしまうんちゃうか?はっはっは~!」

 ありさは脂汗を流しながら必死に耐えてはいたものの、肉体的にすでに限界に達していた。
 挿し込まれた張形に自ら腰を振りながら貪るように食らいついたのだった。

「う~っ、う~っ、ううう~っ!」
「はっはっは~!とうとう腰を振り出したか。よっしゃよっしゃ、それでええのや。もう二度と浮気なんかしたらあかんのやで?ええなぁ」

 丸岩は凄みながら、ありさの顎を指で摘むように持ち上げた。
 そして止まっていた張形の反復運動を再開させた。
 ありさは身体を弓なりに反らせ、いつしか快楽の園をさまよい始めていた。

「がっはっは~、なんぼ拒んでも、女の性(さが)ちゅうもんは哀しいもんやなあ~。わっはっはっは~」
「うぐ…ううう…ううっ!」
「ありさ、お前はわしのもんや。他の男には指一本触れさせへん。これでよう解ったなぁ?ふっふっふ…」

 人前では滅多に涙を見せないありさではあったが、ひとり床に就くといつも泣いていた。

「俊介はん、会いとおすぅ…、あんさんに会いとおすぅ…」

 いくらさだめとは言っても、好きな男と引き離されて、嫌いな男に添わねばならないことがとても悲しかった。
 自分の置かれている籠の鳥のような立場を呪わしくさえ思った。




第八章 一通の手紙

 6月も末になり、いよいよ夏到来を思わせる暑い夜、ありさは男衆をひとり伴ってお茶屋に向った。
 俊介の屋形訪問の一件以降、女将は警戒を深め、ありさの行く先々に常に男衆をそばに付けることにしていた。
 万が一、またまた沮喪(そそう)があれば、上得意の丸岩に申し訳が立たないと思ったのだ。

 しかし幸いなことに、同伴の男衆はありさが最も好感を持っている北山春彦と言う30代半ばぐらいの男であった。
 ありさは北山に気軽に話し掛けた。

「暑なりましたなぁ~」
「ほんまどすなぁ、そうゆ~たら、ぼちぼち祇園さんどすなぁ~」
「ほやね~、また忙しなりますなぁ~」
「ありさはん・・・」
「はぁ、何どす?」
「あんまり思い詰めんようにせなあきまへんで。身体に毒おすえ」
「あ、北山はん、おおきに~、うちのことそないに気にしてくれはって・・・」
「ありさはん、近頃、ちょっと痩せはったみたいやし・・・」
「うん、そやねぇ、ちょっと痩せたかもしれへんなぁ」
「もし、わてにできることあったら何でもゆ~てや。微力やけど力になれるかも知れへんし」
「おおきに~、そないにゆ~てくれはるだけでも元気が出て来るわ。嬉しおすぅ~」

 ありさの口から久しぶりに白い歯が見えた。

*****

 それから3日後、“織田錦”の廊下で、ありさは北山を呼び止めた。

「北山はん、ちょっとちょっと・・・」
「はあ、なんどすか?」

 ありさは真剣な眼差しで一通の封書を北山に差し出した。

「北山はん、あんさんを見込んで頼みがあるんどす。この手紙を例の本村はんに届けて欲しいんどす。本村はんは堀川通り蛸薬師に住んだはります」
「えっ!ありさはん、もしかして・・・あんさん・・・」
「しっ・・・大きな声出したらあきまへん。お願いできますやろか」

 北山はありさの本村への想いが並々ならぬものと知っていた。
 そして今、ありさが重大な決意をしたことも直感的に感じ取ったのであった。

「はぁ、よろしおます。本村はんのとこまで必ず届けて参じます」
「ほな、頼みますわな・・・」
「はぁ、ほんならすぐに」

 北山は織田錦を出て、早速駆けて行った。

*****

『俊介はんへ
ご無沙汰しています。この前の怪我は大丈夫どすか。
うちは相変わらずの毎日を過ごしております。
俊介はんとお会いしたいけど、ずっと見張りをされてて、
身動きが取れん状態なんどす。
せやけど、どうしても俊介はんにお会いしたいんどす。
もう一度だけお目にかかって、ほんで俊介はんのこと、
諦めよう・・・と思とります。
今夜はお店もおへん。夜の十時に平安神宮の鳥居のとこに
来てくれはりまへんか。
これがうちの最後のお願いどす。
せやけど、もしも俊介はんが来てくれはれへんかっても、
決して恨んだりはしまへんよってに。

うちは俊介はんを生涯お慕い申上げております。 ありさ』

 俊介は北山が去った後、直ぐに手紙を開いた。
 真っ白な便箋にかぼそい文字がしたためられている。
 一箇所だけ文字が滲んでいるのは、おそらくありさが流した涙のせいだろう。
 ついにありさは俊介との決別を覚悟したようだ。
 俊介は手紙を何度も読み返しているうちに、ありさの純粋で一途な想いに心打たれた。
 俊介はついに落涙してしまった。

(ありさ・・・君に会いに行くよ・・・。ありさ、君を失いたくない・・・絶対に・・・)

*****

 ありさは玄関先に人気がないことを確かめて、着の身着のままの姿で織田錦を出て行った。
 急ぎ足で木屋町から三条を通り平安神宮へと向った。

(お母はん、堪忍どすぇ・・・、うち、もしかしたもう帰ってけえへんかも知れへん。あんだけお世話になっておきながら、お返しのひとつもせんと屋形を勝手に飛び出したうちを堪忍しておくれやす・・・。うちは俊介はんの元へ参じますぅ・・・)

 ありさの頬には幾筋もの涙が伝っていた。

 まもなく息を切らしたありさが平安神宮に到着した時、既にそこには俊介の姿があった。

「俊介はん!」
「ありさ!」

 駆け寄るありさ、受け止める俊介・・・ふたりは人目をはばかることな硬く抱合った。

「ありさ、会いたかった・・・」
「俊介はん、うちも会いとうて、会いとうてしょうがなかったわ・・・」
「ありさ、もう君を放さないよ」
「おおきにぃ、すごう嬉しい・・・。そやけどそれは無理なことやおへんか?」
「無理なんかじゃない。僕はどんなことがあっても君を放さないよ。でもこのままだと、彼らは必ず君を連れ戻しに来るもの。捕まると君がどんな目に遭うやら・・・。だから決めたんだ。君を連れてこの京都から出て行こうと」
「えっ!なんどすってぇ!?そんなことしたら、俊介はん、大学に行かれしまへんがな!」
「それは解ってる。解った上で言っているんだ。勉強なら別にK大へ行かなくてもできるし・・・。僕は君を選んだ。僕は君なしでは生きて行けないことに気がついたんだ」

 俊介の言葉を聞き、ありさは嬉しさに胸の震えが治まらず、袂(たもと)で目頭を押さえて泣きじゃくった。

「俊介はん、嬉しおすぅ~、うち、俊介はんとやったら、どこへでもお供しますぇ~」
「ありがとう、ありさ。でもこの先、決して安楽なものじゃないかも知れないけどいいんだね?」
「そんなん、かまへん。うち、俊介はんとやったら地獄の底でも、どこでも付いて行くぇ・・・」
「そうまで言ってくれるんだね。嬉しいよ」

 俊介は優しく微笑んでありさの頬に唇を寄せた。

「ありさ、それじゃ今からすぐに夜汽車に乗って遠くへ行こう」
「え~っ!ほんまどすか~?」
「うん、本当なら君も僕も一旦戻って荷物をまとめたいところだろうけど、そんなことをしていたらきっと捕まってしまうと思うんだ。ある程度のお金も用意したから当分はしのげると思うし。さあ、今から京都駅に向かおう。最終の汽車にまだ間に合うはずだから」

 ふたりは急ぎ足で、一路、京都駅に向かった。

 京都駅に着いた時には23時20分を少し廻っていた。

「ありさ、だいじょうぶかい?」

 俊介は汗の滲んだありさの額を手拭いを出して拭ってやった。
 時刻表を見た。
 富山行きの汽車に乗って途中の福井で降りるつもりだ。
 発車は23時30分。俊介は急いで切符を求め改札をくぐった。

『富山行きの汽車はまもなく発車します~。お乗りの方はお急ぎくださ~い~』

 ありさ達が汽車のデッキに脚を掛けようとした時、遠くからふたりを呼び止める声がした。



第九章 逃避行

「お~い!待たんかえ~!そこの学生っ!舞妓と駆け落ちしたらどんな目に遭うか判ってるんかあ~!」

 男が二人、血相を変えてありさ達の方へ向かって来た。

「あっ!あれは丸岩の下にいつもいたはる人達やわ!えらいこっちゃ、捕まったら終わりやわ!」

 ありさは恐れ慄き俊介にしがみ付いた。
 追っ手はたちまちデッキまで辿り着き、ありさを匿おうとする俊介に詰め寄った。

「おい!ありさを返さんかえ!ありさは屋形の大事な財産なんや。おまけに丸岩はんが高い金払ろてくれて水揚げまでした身や。お前の好きなようにでけると思てんのんか!あほんだらが~!さあ、早よ返さんかい!」

 男たちはそう言いながら、俊介を押し退け、ありさの手を引っ張ろうとした。
 ありさはもう片方の細い腕でデッキの取っ手を握って必死に耐える。

「いやや~~~っ!」
「やめろっ!ありさが嫌だって言ってるじゃないか!」

 俊介はそういって、男の胸座を無我夢中で押した。
 不意を突かれた男はホームに尻餅をついて転げてしまった。

「あ、いた~っ!な、何しやがんねん!」

 入れ替りもうひとりの男が俊介に襲い掛かったが、間一髪、発車の直前で俊介はすがりつく男を脚で蹴り飛ばしてしまった。

(ピ~~~~~ッ!ガッタンゴットンガッタンゴットン・・・)

 汽笛が駅構内に鳴り響き、ついに汽車が発車した。

「こらあ~!待たんかあ~~~!」

 男たちは懸命に追い掛けたが、汽車の加速に敵うはずもなかった。
 一体何事が起きたのかと、車内にいた乗客の目は一斉にありさ達に注がれた。

「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした」

 俊介は角帽を脱いで、乗客達に深々と頭を下げた。
 俊介の冷静で潔い態度に乗客達にも安堵の表情が浮かんでいた。
 4人掛けのボックス席に隣り合って座ったありさと俊介はホッとため息を吐いた。

「俊介はん、うちを守ってくれはっておおきに~。怪我はおへんどしたか?」
「君を守るのは当然のことだよ。怪我?うん、だいじょうぶだよ」
「今頃聞くのん、変やけど・・・この汽車でどこへ行くんどすか?」
「ははは~、あ、そうだった。君に行き先を行ってなかったね。実は僕の伯父が福井県に住んでいるので、取りあえず一旦そちらに身を置こうと思ってるんだ」
「そうどすか。あのぅ・・・、うちもしっかりと働くさかいに心配せんといておくれやすなぁ~」
「食べるくらいは心配しなくていいよ」
「そうなんどすか。おおきにぃ~」
「あ、そうだ。君にあげるものがあったんだ」
「え?」

 俊介は鞄から丁寧に包装された小箱を取り出した。

「これ、君にあげるよ」
「うちにくれはるんどすか?何どすのん?これ・・・」
「うん、以前、四条河原町の小間物屋で貝紅を眺めていたことがあったろう?君にあげたくて買っておいたんだ」
「ほんまどすかぁ?やぁ、嬉しおすわぁ~。今、開けてもよろしおすかぁ?」
「もちろんだよ。気に入ってくれたらいいんだけど」

 ありさは自分が好きになった男性から贈り物を貰うのは初めてのことであった。
 ありさは満面に笑みを浮かべながら、包装をゆっくりと丁寧に解いた。
 小箱から出て来たものは、とても色鮮やかな貝紅であった。

「やぁ、きれいやわぁ~、俊介はん、おおきに~、うち、ほんまに嬉しおすぅ・・・。大事に大事に使わせてもらいますよってに」

 俊介はありさの心底喜ぶ表情を見て、満足そうに微笑んだ。






第十章 越前の浜辺

 ありさと俊介が駆け落ちをして1カ月が流れた。
 越前海岸で料理旅館を営む伯父の一平宅に身を寄せた俊介とありさは、伯父の世話に甘んじることを極力避け、二人して一生懸命働いた。
 俊介は海産物の卸問屋に勤め、ありさは伯父の旅館を女中奉公して汗を流した。

 そんな折り、街の駐在がやって来て伯父の一平に尋ねた。

「本村さん、元気でやってるんかぁ。 おめぇの甥の本村俊介さんちゅ~のはぁ、こっちゃに来てぇましぇんか? もしも、来てぇもたら教えてんで 」
「やあ、駐在さん、ご苦労さんですってぇ。 う~ん、俊介けぇ? 久しく会ってねぇ~ね」
「いやあ、それならいいんほやけどぉね」
「俊介が何ぁんぁしでかしたんやってかぁ? 」
「いやいや、何でもぉ京都で、舞妓ぉを連れて逃げてるそうで。もほやけどぉおて、こっちゃをぉ頼って来てぇねぇ~かと」
「え!?俊介のやつ、ほンなもぉんことをぉ!? もしも来てぇもたら、あんなぁぁに連絡するんから」
「頼むでぇね」

 二人の会話を柱の陰で立ち聞きしていたありさは、遠く離れた福井にまで捜査の手が及んでいることを知り愕然とした。

(あぁ、もう、あかんわ・・・、どこに行っても、あの執念深い丸岩はんは追っ掛けてきはるわ・・・もうあかんわ・・・)

 ありさは、伯父に少し出掛けたいと告げ、俊介の働く卸問屋に向かおうとした。
 その時、俊介から詳しい事情を聞いていた一平は優しい口調でありさに語り掛けた。

「ありささん、心配せんでいいよ。うらぁぁちゅ~のはぁ、おめぇや俊介をぉ絶対に匿うからぁ。間違ってもはやまってもたら、あかんよ」
「あ、はい・・・。心配をお掛けしてすまんことどすぅ~、ほんまにおおきにぃ~」

*****

 ありさが血相を変えて尋ねてきたため、俊介は職場の上司に暫しの休憩を申し出で、ありさを連れて越前海岸に向かった。

「そうなんだ・・・、警察が尋ねて来たとは・・・。もうここにもいられないね」
「俊介はん・・・」
「ん?なに?」
「俊介はん、どこに行ったかて、あの蛇みたいにしつこい丸岩は追っ掛けて来はるわ・・・」
「あの男は警察まで巻き込んで、僕たちを捕まえようとしている。ずる賢い男だ」
「もしも捕まったら、俊介はん、半殺しの目に遭わされはる・・・うち、そんなん絶対いやや・・・」
「いや、僕のことよりも君のことが心配だ。sどんな仕打ちをされるやら・・・」
「俊介はん・・・」
「ん?」

 ありさは悲しそうな表情で、白い錠剤の入った睡眠薬らしき瓶を俊介に見せた。
 俊介は驚いた。

「いつのまにこんなものを・・・」
「どうしようものうなった時に飲も思て、用意してたんどす・・・」

 ありさの瞼には今にも落ちそうな涙がいっぱい浮かんでいた。

「そうだったのか・・・、僕も君と引き離されるなら死んだ方がましだ」
「あぁ~ん!俊介は~ん~!うちかて、うちかて~、俊介はんと離れとうない~。俊介はんと離れ離れになるんやったら死んだ方がええ!俊介は~ん~!」
「ありさ・・・」

 ありさはついに号泣し、俊介の胸に頬をうずめた。
 堪えていた涙がまるで堰を切ったように流れ落ちた。
 俊介はありさを抱きしめた。
 強く強く抱きしめた。
 俊介の目にも熱いものが光っていた。

「それじゃあ・・・飲もうか・・・?」
「よろしおすんか?」
「うん・・・」
「うちのために、うちのために・・・俊介はん、堪忍しておくれやすぅ~」
「いいんだ、いいんだ・・・僕はありさが好きだから・・・絶対に離したくないから・・・」
「嬉しおすぅ~、俊介はん、うち、ほんまに嬉しおすぇ~・・・」

 俊介は薬瓶の蓋を開けようとした。




第十一章 最後の愛

「俊介はん、ちょっと待って。この薬を飲む前に、もういっぺんだけうちを愛しておくれやすな・・・」
「・・・・・」
「水の中で抱合うて、ほんで、薬をいっしょに飲みまひょ・・・」
「うん・・・わかった・・・」

 二人は手を繋ぎ、浜辺をゆっくりと沖合いに向って歩き始めた。
 季節はもう夏だと言うのに、打ち寄せる波が氷のように冷たく感じられた。

「あ、痛・・・」

 ありさは小石を踏んだのか、少しよろけて俊介にもたれ掛かった。

「だいじょうぶ?」

 ありさをしっかりと受け止める俊介。
 足首が水に浸かる。
 一瞬ン止まった二人だったが、また歩き始めた。
 深い海に向かって。

 膝まで浸かる深さで二人は立ち止まり、抱き合いくちづけを交した。

「ありさ、君を幸せにしてあげられなくてごめんね・・・」
「なに、ゆ~たはりますんや。うちは、俊介はんに巡り会うて幸せどすぇ・・・」

 ふたりは頬を寄せ硬く抱き合う。
 息も詰まるほどの濃密なくちづけ。
 俊介は目を閉じて、ありさのふくよかな胸の膨らみをてのひらで味わった。
 そしてその感触を永遠の記憶の中に刻み込んだ。
 死出の旅・・・いや、そうではない、あの世でともに暮らすのだ。
 ありさは心にそう誓った。

「あ・・・ああ、嬉しおす・・・最後まで俊介はんに愛されて、うち嬉しおすぅ・・・」
「ありさ・・・君が好きだ・・・君がいとおしい・・・」

 俊介はありさの襦袢の裾をかき分けて、愛らしい亀裂を指でなぞる。

「あああぁ~・・・、俊介はん・・・うち、好きどす・・・あんさんが好きどすぅ・・・」

(グチュグチュグチュ)

 ありさの亀裂はほんのりと熱を帯び、早くも甘い蜜を滴らせ始めた。

 二人は抱合ったまま、水の中に腰を沈めた。
 冷たい水の中であっても、俊介の熱した鉄柱のような感触はあの日と同じだ。
 そう、蛸薬師で愛し合ったあの日と・・・。

 ありさは腰を沈めた。
 身体の奥に俊介の熱くなったものが食込んでいく。

「はあぁ~~ん・・・、俊介はん、これが、これがうちらの最後の愛なんどすなぁ~?」

 ありさの目頭からは止めどもなく大粒の涙が溢れ出した。
 俊介の頬も涙が光っていた。

「そうだよ、これが二人にとってこの世で最後の愛だよ。でもね、死んでからも二人はずっといっしょだよ」
「俊介はん、そうゆ~てくれはって、うちすごぅ嬉しおすぇ~。あの世でもうちをずっとずっと愛してくれはりますなぁ?」
「もちろんだとも。ずっとずっと君を愛してる・・・永久に君を愛してる・・・」

 俊介のものは恐ろしいほど硬く大きく怒張し、ありさの蜜壷に深く収まった。
 俊介は激しく腰を揺さぶる。

「ああぁ~・・・俊介はん・・・す、すごおすわぁ~・・・あっ、ああっ・・・」
「あ、ありさ、僕もすごくいいよ・・・」

 俊介はズボンのポケットから濡れた瓶を取出した。

「ありさ・・・後悔しないね・・・いいんだね・・・?」
「へぇ、うち、後悔なんかしまへん・・・俊介はんといっしょやったら・・・」
「じゃあ・・・」

 俊介は瓶の蓋を開け、てのひらに量の約半分を取り出し、ありさの口に含ませた。

「俊介はん、短い間やったけど、楽しおしたぇ~・・・俊介はん、さいならぁ・・・・・」

(ゴクリ・・・)

「あ、ありさ~~~~~~~~~~!!」

 俊介は大声で叫びながら、自らも残った半分を口の中へ放り込んだ。

「ありさ・・・僕のために許して・・・僕とめぐり合ったためにこんなことになってしまって・・・」
「そんなことあらへん、そんなことあらへん、うちは俊介はんと巡りおうて幸せどしたぁ・・・・」
「それじゃ、ありさ、あの世でもう一度逢おうね・・・さようなら、ありさ・・・」

(ゴクッ・・・)

「しゅ、俊介はん!!」
「ありさ・・・」


第十二章(最終章)貝紅

 ちょうどその頃、浜の方では誰かが沖に向かって大声で呼んでいた。
 だが、その声は潮騒で打ち消され、俊介たちに届くことはなかった。

 浜辺に立って叫んでいたのは、俊介の伯父と駐在であった。
 そしてその横には、屋形の女将と男衆の北山の姿もあった。

 北山は喉が張り裂けんばかりに大声で叫んでいた。

「ありさはん!俊介はん!早まったらあかんで~!!はよう、こっちへ戻って来んかい!女将はんがなあ、あんたらの恋を許すてゆ~てはるんやで~!丸岩はんもありさはんの心意気には負けたゆ~たはるんやで~!せやから、死んだらあかんのや~~!!死んだらあかんでぇ~~~!!」

 しかしいくら有りっ丈の声で呼んでみても、ありさたちには届かなかった。

「これはぁダメだ。 うらぁぁはすぐに、漁師に舟をぉ頼んでくるわ! 」

 浜から呼んでも無駄であると判断した駐在は、慌てて網元の元へ走って行った。

*****

「う・・・うう・・・ありさぁ・・・」
「しゅ、俊介・・・はん・・・」

 次第に薄れ行く意識の中で、ありさは俊介と出会った高瀬川でのできごとを思い浮かべていた。

「あの時はおこぼの鼻緒を・・・なおしてくれはって・・・おおきにどしたなぁ・・・。俊介はんと出会えて、うち、ほんまに幸せどしたわぁ・・・」
「ぼ、僕も・・・君と出会えて・・・とても幸せだったよ・・・。だ・・・だけど、できることなら、い、生きて・・・君を幸せにしてやりたかった・・・」
「いいえ、うち・・・今でもこうして俊介はんと寄り添えて幸せどすぇ・・・あの世でいっしょに・・・なりまひょうなぁ・・・」

 死の瀬戸際と言うのに、ありさの表情には苦しみの表情もなく、実に穏やかなものであった。
 やっと自由を得た歓び・・・
 とこしえの愛を得ることのできた歓び・・・

 ありさの瞳が閉じ、動きがピタリと止まった。
 その時、ありさの懐(ふところ)から色鮮やか蛤貝が水面にポトリとこぼれ落ちた。
 それは愛する俊介から貰った大事な大事な贈り物・・・

 息が絶える直前まで肌身放さず大切にしていた貝紅であった。
 貝紅は寄せては返す波に吸い込まれ、水中へと消えていった。





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